最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)259号 判決 1948年6月01日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人木沢一夫及辯護人大谷彰一各提出の上告趣意は末尾添附別紙記載の通りである。よって左に右各趣意に對する判斷を記載する。
辯護人大谷彰一の上告趣意に付て。
被告人が第一審公判に於ける自白を第二審で覆した場合裁判所は諸般の資料状況に照し第一審における自白の方が真実に合するとの心證を得たときは第二審の供述を執らず第一審の方を採っても違法でない、そして其際必ず所論の様な證人の訊問をしなければならないといふ法規は存在しないから原審がそれをしなかったことを以て違法なりとすることは出來ない、他に補強證據なくして被告人の自白(公判廷以外の)のみで斷罪することは法の許さない處であること所論の通りである、しかし相當の補強證據が有れば、これと自白とを綜合して事実を認定することは固より妨げない處で、其補強證據は必ずしも犯罪構成要件たる事実全部を證明するに足るものでなくてもよいこと既に當裁判所の判例とする處である、(昭和二十二年十二月十六日言渡同二十二年(れ)第一三六號事件判決)本件において原審が採用擧示した書證は被告人及相被告人杉野地貴夫の各自白の補強證據たるに十分のものであり、これと右各自白を綜合すれば原判示各犯罪事実(判示第四の事実は被告人の自白と書證だけでも認められる)を認め得るものであるから原判決に所論の様な違法は存在しない、論旨は採用に値しない。(相被告人の自白をそれのみで證據として採り得るか否かは暫くおくも本件の如く補強證據の有る場合これを採り得ることは勿論である。)(その他の判決理由は省略する。)
よって刑事訴訟法第四百四十六條に從って主文の如く判決する。
以上は當小法廷裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)